NHK交響楽団 横須賀公演

一流の演奏家集団の手腕を、美旋律あふれるロシア音楽で堪能したい

2017.3.15

 昨年、創立90周年を迎えた日本最高峰のオーケストラNHK交響楽団が、6月、横須賀芸術劇場でオール・ロシア・プログラムを披露する。演目は、チャイコフスキー、ボロディン、ストラヴィンスキーの手によるドラマティックでスケールの大きな楽曲ばかり。指揮台にのぼるのは、N響とも数々のステージで共演し、誠実な音楽性と明晰なタクトさばきで信頼を集める梅田俊明だ。

 プログラムの冒頭を飾るのは、チャイコフスキー(1840~1893)の幻想序曲「ロメオとジュリエット」。そのタイトルの通り、シェイクスピアの戯曲から題材が取られたこの作品は、1869年、チャイコフスキーが音楽院を卒業した4年後の29歳の頃に書かれた。音楽は、悲劇的な結末を匂わせながら、モンタギュー家とキャピュレット家の対立や若い二人の恋を描き出す。20分ほどで悲恋の物語をみごとに再現する、チャイコフスキー初期の傑作のひとつだ。

 続くピアノ協奏曲第1番は、その6年後の1875年の作。おなじみの壮麗な序奏に始まるこの名曲は、草稿段階で、チャイコフスキーが作品を献呈するつもりだったモスクワ音楽院院長のニコライ・ルビンシテインから、貧弱なうえ演奏不可能だと非難されたというから驚きだ。しかしその後完成した楽曲が初演されると好評を得て、世紀を超えて愛されるマスターピースとなった。

 この協奏曲のソリストに迎えるのは、長きにわたり第一線で輝き続ける、ピアニストの小山実稚恵。1982年チャイコフスキー国際音楽コンクールに入賞して国際的なキャリアをスタートさせた彼女にとって、同コンクール本選の課題曲でもあったこの作品は特別な存在であり、また幾度となく演奏してきた得意のレパートリーであるに違いない。デビューから30年以上が経った今も、ますます音楽への愛情が強くなっているという小山のピアノは、あたたかく、優しく、そして力強い。ロシアの母なる大地を思わせる、豊潤なチャイコフスキーを聴かせてくれることだろう。

 そして後半、まず演奏されるのは、ロシア五人組のひとり、ボロディン(1833~1887)の交響詩「中央アジアの草原で」。ロシア民謡と東洋の旋律がかわるがわる現れ、草原の中を、ロシアの衛兵とアジアの民が馬やラクダにのって通り過ぎてゆくさまを描く作品だ。有名な「だったん人の踊り」を含むオペラ「イーゴリ公」と並ぶボロディンの人気作で、この作曲家ならではの郷愁あふれる音楽が魅力。エキゾチックな旋律と穏やかな曲想を持つ美しい音楽に包まれていると、風の吹き抜ける広大な草原がありありと目に浮かぶことだろう。

 クライマックスに置かれているのは、前衛的な数々の作品を世に送り出し、20世紀の音楽界に強い影響を及ぼしたストラヴィンスキー(1882~1971)のバレエ組曲「火の鳥」。不死の魔王の城で王子が火の鳥を捕え、逃がすかわりに魔法の羽をもらうところから展開する、ロシアの民話に基づく物語。斬新な音楽書法を用いて書かれた楽曲が、梅田の緻密で生き生きとした音楽づくりにより、鮮やかな色彩とともにホールに広がることだろう。時に優美に舞うような、時に燃え上がるようなストラヴィンスキーの音楽を楽しむことができそうだ。

 ロシア民族主義が強まった時代のボロディン、西洋の様式を取り込みつつロシア音楽を開花させたチャイコフスキー、そして西欧音楽にも刺激を与えた20世紀のストラヴィンスキーが並んだ、興味深いプログラム。ストーリーを音楽で表すことをどう実現しているのか、また、取り入れたロシア民族音楽をどのように料理しているのか、それぞれの作曲家による違いを聴き比べるのもおもしろそうだ。いかなるプログラムでも、変幻自在な表現力で作品の本質に迫る音を奏で上げるN響のこと。そのあたりもキッチリと描き分けてくれるだろう。一流の演奏家集団の手腕を、美旋律あふれるロシア音楽で堪能したい。