YOKOSUKA ARTS THEATRE

「今だからこそ、心の中に歌を…」~今、歌うことができないあなたへ~
森麻季さん、福井敬さんからのエール

去る12月26日、よこすか芸術劇場で行われた『横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ60 森麻季&福井敬ゴールデン・デュオ・リサイタル』。歌曲からオペラアリアまで、お二人の歌声がホールいっぱいに広がり、多くの方を優しく包みました。

さて、こちらの公演は当初6月の開催予定が、新型コロナウィルス感染症の拡大により12月に延期となりました。ご出演のお二人もこの公演のほか、「第九」などの演奏会やオペラなど多くの演奏会の中止・延期により大きな影響を受けられました。

そのようなご経験をされたお二人。同じく昨年、「美しき日本の歌」「第九演奏会」などの公演が中止になり、長らく活動を休止している当劇場の合唱団に向けて、エールを頂きました。


●福井 敬さん

私も新型コロナウィルス感染症の拡大による自粛の時は、合唱団の皆さんもそうだと思いますが、例えば歌おうとする意欲がなくなったり、なかなかモチベーションが上がりませんでした。でも、そういう時期を経て「やっぱり今だから歌いたい」と思った瞬間は必ずあったのではないかと思います。私も気持ちが鬱陶とした時に、何気なくテレビから流れてくる音楽がすごく心に響いた瞬間がありました。やはり、音楽は何にもないところでも必ず存在し、それが人の心を本当に支えてくれる、何かの支えに必ずなるものだと思いました。

レナード・バーンスタインが、ベルリンの壁崩壊記念コンサート(※1)で「第九」を演奏したときに、「Freude(フロイデ=喜び)」を「Freiheit(フライハイト=自由)」に替えて演奏しました。まさに今、コロナウィルス感染症により世界中で「自由」が無くなっています。ですが、「心の中の自由」は誰にも束縛されないと思っています。ぜひ合唱団の皆さんは、ご自分でもご家族とともにでもいいので、必ず心の中に歌を、音楽を口ずさんでください。必ず歌う事を「自由」にできる時は来ると思います。ぜひ、その時までご自分の心の中で歌を歌い続けて欲しいと思います。

●森 麻季さん

福井さんから「自由」という話がありましたが、シラーが詩を作った時代は「自由」を歌うことが政治的・戦争の背景から叶わなかったため「Freiheit(フライハイト=自由)」を「Freude(フロイデ=喜び)」に替えて「第九」を作り、皆が歌えるものにしたんですね。なので、本当は「Freude」は「Freiheit」の意味なので、福井さんがおっしゃったお話は本当に素晴らしいと思います。私は、新型コロナウィルス感染症の拡大により、3月から8月まで、すべての演奏会がキャンセル・中止となりました。その間はこの先の不安や悲しみ、皆が集まっての演奏会が何年もできないのでないか、という絶望的な気持ちになることもありました。また、プロとして仕事が完全になくなりましたので、ただ歌いたいという気持ちだけではなく、まさに死活問題。そういう意味でもすごく深刻でした。でもその時期を経て、福井さんがおっしゃったように色々なところに音楽があり、私も配信しましたが、医療従事者の方々に演奏を届ける方が出てこられたり、音楽が少しずつ気持ちを繋いでいきました。そして、再開した9月に東京オペラシティで演奏できた際は、今まで以上に、ホールで歌えること、お客様と演奏を共有できることのありがたさ、今まで感じたことのない幸福感を覚えました。そして家で歌うこととホールで歌う事、一人でする音楽と皆でする音楽、この違いもひしひしと感じました。

合唱団、オーケストラの皆さんは、まだ自由に演奏会はできないかもしれません。ですが、今度できる時には、きっと今まで味わったことのない喜びや幸せとともに、「あぁ、音楽って素晴らしい!」という気持ちがいっぱい押し寄せてきます。その時を楽しみに、「音楽が好き」「演奏したい」という気持ちを温めていただけたらと思います。

―――――――――― 福井さん、森さん、温かいエールをありがとうございました。


※1:バーンスタインの第九~ベルリンの壁崩壊記念コンサート〜
1989年12月25日、ドイツの東西分離の象徴でもあったベルリンの壁が崩壊したことを記念して行われたレナード・バーンスタイン指揮による「第九演奏会」。オーケストラは、バイエルン放送交響楽団をメインとした6つの楽団のメンバーで特別編成し、それに東西ドイツの合唱団と東西ドイツ&英米のソリストが加わったもの。西ドイツ・東ドイツに東西ドイツの分離のきっかけとなったアメリカ、ソ連、そして第二次大戦時のドイツの敵国イギリスとフランスという、まさに記念碑的な演奏会。



横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ60
森 麻季&福井 敬 ゴールデン・デュオ・リサイタル

2020年12月26日(土) 
15:00開演 (14:00開場)
よこすか芸術劇場

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