YOKOSUKA ARTS THEATRE

「新しい発見、ありますよ、きっと」。~モルゴーア・クァルテット《クラシック/プログレッシヴ・ロック名曲選》~

2021年 11月27日(土)15:00開演 会場:ヨコスカ・ベイサイド・ポケット                

                        立川芳雄(音楽評論家)

 弦楽四重奏団がプログレッシヴ・ロック(以下「プログレ」。)を演奏する。とっても面白くって楽しいことなんだけど、この面白さ、楽しさって、なかなか伝わらないんだよね。もちろん最初からわかっている人には、言わずもがな。そういう人は、今回の公演、言われなくても見たいって思うでしょ。でもそれ以上にね、クラシックは好きだけど、プログレって何?とか、プログレ好きだけど、クラシックってなんか鬱陶しい、とか、そんなふうに思っている人に、今回の公演見て欲しいんだよね。

 そもそも「クラシック」っていう言葉がさ、良くないと思うんだ。日本語に訳すと「古典」だものね(本当はもうちょっと違う意味もあるんだけど)。「古典」って言われると、学校でお勉強させられた『源氏物語』とか連想しちゃう。でもね、『源氏物語』って、11世紀頃だよ。それに比べるとクラシック音楽の方は、例えば古いって言われてるバッハでも18世紀前半、モーツァルトは18世紀後半で、彼が亡くなる頃にはもうフランス革命が始まっちゃってる。そう、クラシック音楽って、近代のものなんだよ。モダン・アートだよね。古くないんだ。で、モダンってことは、個性の産物だよね。伝統芸能とは、本質的に違うんだよ。伝統芸能ってのはね、ずーっと同じことやってりゃ、いつのまにか“もの”になる(でも、そのずーっと同じことをきちんとできるっていうのは、それはそれで限られた人にしかできない、すごいことなんだけどさ)。けれどクラシック音楽は、そうはいかないんだよ。だからモルゴーア・クァルテットの皆さんもね、個性、磨いてきたはずなんだ。じゃなかったら、あんないい演奏できないもんね。ちょっと大風呂敷を広げちゃうと、クラシックの演奏家って、ピカソとかダリとか、ああいう人たちのお仲間でもあるってわけだよね。

  で、もう一方はプログレ。※1 キング・クリムゾンとか※2 ピンク・フロイドとか※3 イエスとか ※4ジェネシスとか、そんな1970年代頃のバンドが有名なんだけど、名前、知ってるかな?。まあ、そんなことはどうでもよくって、要はプログレって、ロックなんだけど、やりたいことを突き詰めてみたら、なんか不思議なロックになっちゃった、っていう感じの音楽なんだよね。つまり、これも個性の表現。モダン・アート。

  だから、クラシックとプログレって、すっごく相性がいいんだよ、もともと。2012年にNHKで『平清盛』っていう大河ドラマをやってたんだけど、このテーマ曲が「タルカス」っていう曲だった。そう、今回のモルゴーアの公演でも演奏される曲だよね。この曲、エマーソン・レイク・&パーマー(以下「EL&P」)っていうプログレ・バンドの代表曲なんだ。そうそう、EL&Pって呼ばれてる3人組ね。大河ドラマのときには、クラシックの作曲家で大のプログレ好きでもある吉松隆さんが、この「タルカス」を交響曲にアレンジしてたんだよ。

で、今度は同じ曲を、モルゴーア・クァルテットという弦楽四重奏団が演奏する。たった4人で大丈夫なのかって?そう考えるのは素人の浅ましさ。4人でやった方が、ロックなんだよ。これは私の偏見だから、話半分で聞いて欲しいんだけど、私はね、プログレ評論家みたいな仕事してるんだけど、シンフォニックなプログレってのが、どうにも好きになれない(吉松版「タルカス」はもちろん好きだけど)。やたら壮大にすればいいってのが、どうもね。ロマンティックすぎるところも、敬遠しちゃう理由なのかな。たとえばビートルズの曲でもね「イエスタデイ」より「エリナー・リグビー」の方がずっといいと思っているんだけど……。繰り返すけど、これはあくまで個人的な趣味ですよ。

モルゴーア・クァルテット(左から、荒井、戸澤、小野、藤森)ⓒNORIKATSU AIDA

  でもね、この感覚、わかってくれる人は少なくないと思うんだ。で、そういう人にぜひ、今回のモルゴーアの公演を見に来て欲しい。4人だけで演奏するからこそ、一つ一つの音の存在感がすごいんだよね。しかも、4人が足を踏みならしてリズムをとりながら演奏するわ、ヴァイオリンのボウ(弓)の毛は毟れるわで、もう大変。今回の公演では、ショスタコーヴィチとグレツキっていうクラシックの作曲家による曲も演奏するらしいけど、この2人、クラシックのなかでは異端児というか、まあ姿勢としてはロックだよね。ショスタコーヴィチとか、幼い我が子にビアノの速弾きとかさせたりしてて、なんだかヘンな人。でも、その「ヘン」がいいわけだよね。だって、さっきも言ったけれど、クラシックもロックと同じで個性の表現、モダン・アートなんだから。   というわけで、モダンな音楽のユニークさ、面白さが、今回のモルゴーアの公演では味わえるはず。最初にも書いたけど、ロックはどうも……っていうクラシック・ファンや、クラシックってどうも……っていうプログレ・ファンにこそ、この公演、見て欲しい。                                   

新しい発見、ありますよ、きっと

★★公演情報は、コチラ★★

立川芳雄(たちかわ・よしお) /音楽評論家~                                1959年生まれ。80年代半ばから音楽ライターを始め、『レコード・コレクターズ』などに寄稿。70~80年代のロック、ジャズ、およびサブカルチャー全般に詳しいつもりだが、なぜかプログレ関係の仕事の依頼が多い。初めて買ったプログレのレコードは、お年玉で2枚いっぺんに購入したマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』とピンク・フロイドの『狂気』。

  • ※1:キング・クリムゾン・・・ギタリスト、ロバート・フリップを中心に1968年にデビュー。それまでのロック界 にはなかった”プログレッシヴ・ロック”という概念を携え登場したイギリスのバンド。デビュー・アルバムは「クリムゾン・キングの宮殿」。幾度かの解散と再結成を繰り返しながらも革新的な作品を発表し、現在もなお活動中。2021年11月・12月には来日公演が予定されている。
  • ※2:ピンク・フロイド・・・1965年、シド・バレット(g,vo)を中心に結成されたイギリスのバンド。プログレッシブ・ロックの歴史のなかで最も商業的成功を収めたバンドの一つ。73年の『狂気』は全米1位&15年間200位内チャートインという前人未到の記録を達成。以降も傑作アルバムを発表し、プログレッシヴ・ロックを代表するバンド。2014年にラスト・アルバム『永遠(TOWA)』をリリース。                                         
  • ※3:イエス・・・1968年、クリス・スクワイア (B)、ジョン・アンダーソン(Vo)を中心に結成されたイギリスのバンド。70年代のプログレッシヴ・ロック・ブームを牽引、71年『こわれもの』、72年『危機』など数々の名盤を生み出し、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、EL&P、ジェネシスと共に五大プログレ・バンドと呼ばれている。離合集散を繰り返しながら、ほとんど活動休止期間を持たずに今も現役で活動中。                                               
  • ※4:ジェネシス・・・1967年に結成されたイギリスのバンド。70年代のプログレッシブ・ロック全盛時代、多くのバンド群のなかで特に際立っていたのは、奇抜な衣装をまとったピーター・ガブリエル(Vo、Key)を中心とする演劇的なステージング。ガブリエル脱退後、80年代にはフィル・コリンズらを中心にスタジアム・ロックを展開、世界的な成功を収めた。2020年、再結成とツアー開催を発表(延期となっている)。

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