YOKOSUKA ARTS THEATRE

奔放にして怪しすぎる祝祭空間
音楽評論家 松山晋也が語る 民クルの魅力

文=松山晋也(音楽評論家)

4/9(土) 見砂和照と東京キューバンボーイズ VS 民謡クルサイダーズ 大パノラマコンサート          《ゲストDJ ピーター・バラカン》

民謡クルセイダーズ

 民謡クルセイダーズは、日本発のワールド・ミュージック系グループとして、ここ数年、世界的に注目を集めてきた。自国の伝統音楽をベースにしたポップ・ミュージックの担い手としては、これまでも喜納昌吉やネーネーズなどの沖縄ものや、アイヌの OKI などが海外でも知られてきたわけだが、民クルはオーソドックスな日本民謡を「ラテン+α」な斬新なマナーで繰り広げるガレージ感覚濃厚なユニットだ。近年、日本の若いリスナーや音楽家たちは自分の足元にも魅力的な伝統音楽があったことに気づき始め、クラブDJまでもが日本民謡をプレイするようになっているが、民クルはそんな新しいフェーズの象徴的存在でもある。

 民クルが結成されたのは2011年のこと。ロックやブルーズやパンク経由でスカやカリプソ、ブーガルーなどラテン音楽に傾倒していったギタリスト田中克海が、ジャズを経て日本民謡を歌い始めたフレディ塚本をシンガーとして仲間に引き込む形でバンドは始動する。田中は、その頃夢中になっていた1950年代の和風ラテン音楽(東京キューバンボーイズや林伊佐緒、江利チエミなど)からインスピレーションを得て、自分たちのラテン系サウンドにフレディ塚本の日本民謡をミックスすればより面白いものができると思ったのだった。塚本は当時、ロカビリーをバックに日本民謡を歌ったりしていたという。こうして福生の米軍ハウスを拠点にする斬新なパーティ・バンドとして徐々に注目されるようになった民クルは、2017年暮れにデビュー・アルバム『エコーズ・オブ・ジャパン』を出してからは加速的に知名度と人気を拡大させていったのだった。18年にはフジロックに出演。19年にはデビュー・アルバムが海外でもリリースされ、ヨーロッパや南米コロンビアでのライヴ・ツアーを敢行。そして20年にはオーストラリアとニュージーランドでワールド・ミュージック・フェスティヴァル〈WOMAD〉に参加した。コロナ禍がなければ、既に米国上陸も果たしていたはずだ。  

 クンビアやボレロ、サルサ等のダンサブルなラテン音楽を柱にしつつ、エチオピア音楽やナイジェリアのアフロビート、レゲエ/ダブなどのテイストも随所にまぶした怪しすぎるミクスチュア・サウンドと、「串本節」や「安来節」といった王道日本民謡。水と油は、しかし民クルの逞しい創造力/想像力によって見事に溶け合い、一体化し、楽天的祝祭空間を作り出してゆく。フレディ塚本の滋味深い歌唱もグルーヴィでありながら、けっして日本民謡の芯/真をはずすことがない。今回の公演では、バンド結成の大きなインスピレーション源となった東京キューバンボーイズとのいわば親子共演も予定されている。このコラボレーションが両者にどのような刺激を与え、新たな可能性を開くのか、そこを見届けるのもまた大きな楽しみである。

■松山晋也(まつやま・しんや/音楽評論家) 1958年生まれ。音楽評論家。著書「ピエール・バルーとサラヴァの時代」(青土社)、「めかくしプレイ:Blind Jukebox」(ミュージック・マガジン社)、編・共著「カン大全~永遠の未来派」(Pヴァイン)、「プログレのパースペクティヴ」(ミュージック・マガジン社)。その他音楽関係のガイドブックやムック類多数。

公演情報》
見砂和照と東京キューバンボーイズ VS 民謡クルセイダーズ 大パノラマ コンサート
~ラテンと民謡が火花を散らす!~ ゲストDJ:ピーター・バラカン
2022年4月9日(土) 16:00開演(15:00開場) よこすか芸術劇場  チケット好評発売中!

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