YOKOSUKA ARTS THEATRE

バリトン歌手の大西宇宙さんにインタビューしました

来月6月8日の横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズにご出演いただく、バリトン歌手の大西宇宙さん。先月、オペラ出演のためにアメリカに滞在していた大西さんにインタビューを行いました。

ーー今年2月のダラス・オペラデビューについて

Q.少し前になりますが、アメリカのダラス・オペラデビューおめでとうございました。プッチーニの歌曲「ラ・ボエーム」のマルチェッロ役でカンパニー・デビューを果たし、2月28日から3月9日まで全5公演行われたそうですね。この劇場はアメリカ有数のトップ劇場の一つで、かのマリア・カラスがこけら落としリサイタルを行ったことや、ジョーン・サザーランド、プラシド・ドミンゴなど数々の名歌手がアメリカ・デビューをしたことで知られています。現地の反響はいかがでしたか?また、大西さん ご自身が印象に残っている出来事はありましたか?

(大西)ありがとうございます。今回はキャストが役柄の実年齢に近く、若くも実力がある歌手が揃ったことで業界でも大きな注目を集めました。新しい劇場でデビューというのは常に緊張感がつきものですが、年齢が近いこともありチームワークがよく、多くが、メトロポリタンやバイエルンなどの世界的な歌劇場で歌い始めている優秀な歌手たちと肩を並べて共演できたことで、私にとっては大きな自信にもなりました。レビューも特に、マルチェッロ役の描写や声の輝きに言及していただきました。劇場からの信頼も得られたと思いますし、これをきっかけにこういった場での出演がまた増えるといいなと思っています。

©︎Kyle Flubacker
©︎Kyle Flubacker

ーーアメリカでの活躍そして展望

Q.5月3日から18日まではミネソタ・オペラで「セヴィリアの理髪師」のフィガロ役を務められるので、まだ帰国はしばらく先になりますね。

 (大西)ボエームからセヴィリアの理髪師の稽古までちょうど2週間ほどありました。その間はまた役の準備をしたり、アメリカの別の街でオーディションなどなかなか忙しい休暇を過ごしました。ミネソタはなんとミシシッピ川の源流や多くの湖があったりと、自然の美しいところで、稽古がない時は散歩に出かけたりと有意義な日々を過ごしています。セヴィリアのフィガロは皆さんに意外と言われますが実は初役で、役そのものから学ぶことも多いですが本当に毎日充実しています。(4月当時)

「セヴィリアの理髪師」を上演したOrdway Music Theater
稽古の様子
ミシシッピー川のほとりで

Q.大西さんは、ニューヨークのジュリアード音楽院を修了され、日本より先にシカゴ・リリック歌劇場でデビューされました。2022年にはヒューストン・グランドオペラに招かれ、アメリカでの活躍も目覚ましいですね。今後アメリカで出演したい場所や共演したい音楽家について教えていただけますか?

 (大西)もちろん、ニューヨークにある“あの劇場“にはいつか出演したいと思っています。実は今までにも近いところまで考慮していただいたことは何度かあるのですが、今のところ実現には至っていません。しかしこういったこともご縁ですし、特別焦って「この劇場に出演しなければ!」ということは思わないようにしています。(そう思えば思うほど遠ざかっていく気もしますしね!)歌手では、ステージで再会したい相手として中国出身のYing Fang(イェン ファン)という歌手(ソプラノ)がいます。メトロポリタン歌劇場やウィーン歌劇場、日本では松本フェスティバルの出演でご存知の方も多いかもしれませんが、実はジュリアード時代一緒に勉強した仲で、学生時代はフィガロの結婚やドン・ジョヴァンニなど様々なオペラ(あとは授業も!笑)で一緒に切磋琢磨しました。大活躍中の歌手で尚且つとても尊敬してる歌手なので、また一緒に歌えたら夢のようだな、と思っています。

ーー6月8日に横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズに登場

Q.さて、ミネソタ・オペラ出演後、6月8日にはいよいよ横須賀での小林沙羅さんとのデュオ・リサイタルとなります。もし、大西さんに“横須賀”の思い出がありましたら、是非教えていただけますか?

 (大西)実は私は中学、高校と吹奏楽部出身なので、横須賀芸術劇場には吹奏楽コンクールで何度か来たことがあります。本当に綺麗なホールで、また神奈川出身なのもあり、横須賀の街並みは懐かしさと憧れの気持ちがあります。今回歌い手として訪れるのは初めてなので、この演奏会が決まった時からずっと楽しみにしてきました。

Q.今回の演奏会では、前半はソロやデュオで歌曲を演奏いただきますね。大西さんにはドイツ歌曲でシューベルトの「魔王」「ミューズの子」「月の寄す」をソロで、小林さんとシューマンの「二重唱曲」や武満徹の「小さな空」を披露いただく予定です。曲目を決める際に、小林さんと熟考されたそうですね。

 (大西)小林さんと私は、オペラと歌曲、両方の分野を大事にしているという意味でも共通点のあるデュオだと思います。歌曲で2人同時にそれを発揮できるには、ということで選んだのがシューマンの 「二重唱曲」でした。この中にも男女の多彩な表情があり、お互いの良さが出るのではないかと思いました。
シューベルトの歌曲は大変興味深いもので、作品数も膨大なためそれぞれ歌い手の皆さんに多様な選曲過程があるかと思います。私も詩の内容で考えたり、作曲年代で考えたりと色々ですが、今回はゲーテの詩による歌曲という共通点で3つの曲を一つの括りとして演奏してみることにしました。歌曲は想像力で様々な世界を創り出せることが魅力だと思いますが、この3曲は旋律もとても美しく、たくさんの表情やシーンを楽しんでいただけるのではないかと思います。

ーー共演の小林沙羅さんについて

Q.そして、後半は、ヴェルディの歌劇「椿姫」からオペラ・アリアと二重唱をお聞かせいただきます。大西さんは、オペラやコンサートなどで小林さんとこれまでも夫婦や恋人役など色々な役で共演されてますね。小林さんは大西さんにとってどんな方ですか?

(大西)小林さんとは、不思議とお互いの演技が自然に生まれてくることが多く、オペラでも演技の稽古はいつもスムーズだったりします。これはお互いの様々な舞台経験が発揮されてるのかと思いますが、歌の上で言葉をとても大切にしているからこそできるのではないか、と思っています。
今回の椿姫はまた今までと全然違った役柄同士なので、2人の演技がどのように交わるか、私自身も楽しみにしています。

Q.最後に、6月のデュオ・リサイタルに向け、横須賀のお客様に向けてメッセージをお願いします。

(大西)歌の魅力がたっぷり詰まったプログラムです!地元神奈川で歌う機会は私にとっても貴重なので、ぜひいろんな方にお越しいただけたらと思っています。

アメリカでの活躍もますます楽しみな大西宇宙さん。音楽家同士、息もぴったりな小林沙羅さんとのデュオ・リサイタルでは歌曲・オペラともにその歌声をたっぷりとお楽しみいただけることでしょう。どうぞご期待ください。

小林沙羅 ⒸNIPPON COLUMBIA
大西宇宙 ⒸMarco Borggreve

【公演概要】
横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ74
小林沙羅(ソプラノ)&大西宇宙(バリトン)デュオ・リサイタル
日時:2025年6月8日(日) 14:00開演
会場:ヨコスカ・ベイサイド・ポケット

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