――まず初めに日本音楽コンクール優勝、おめでとうございます。コンクールの前後で、何か変化はありましたか?
ありがとうございます。やはり注目していただく機会が増えたと感じます。コンクールには一つの目標として取り組んでいましたが、大学院を修了してから少し時間も経ち、留学で日本を離れていたこともあり、改めて日本の方々に自分のことを知っていただけたら、という思いがありました。今回の受賞が、そのきっかけになったのかなと思っています。
優勝が決まったときには、たくさんの方から連絡をもらいました。本選を実際に聴きに来てくれた仲間もいて、本当に嬉しかったです。日本音楽コンクールという舞台の注目度の高さを、改めて感じました。
伴奏を当時同じドイツに留学中だった左近允さんにお願いしたのも、大きな決断でした。最初は日本に行って頂くという事で少しためらいもありましたが、他の方の伴奏もされると伺い、思い切ってお願いしました。結果として、ご一緒できて本当に良かったと思っています。
――これからどんな声楽家になっていきたいと考えていますか。
高校生の時に、声楽家とは単に舞台で歌うことが仕事ではない、と考えるようになりました。歌を学んだ者として、舞台での表現はもちろんですが、そこで得た経験や知識を、これから学ぶ人へと伝えることも、大切な役割の一つだと思っています。音楽を伝えるという事は、必ずしも演奏だけに限らず、言葉や振る舞いなど、さまざまな形があると感じています。そうした“伝える”という行為そのものが、自分にとっての表現であり、これからも大切にしていきたい部分です。
日本では“声楽家=オペラ歌手”という印象が強くあるかもしれませんが、私は歌曲やオラトリオなど、幅広い作品に取り組んでいきたいと考えています。異なるジャンルに触れることで、それぞれの表現によい影響が生まれることもありますし、何かひとつの作品を丁寧に掘り下げていく過程そのものを大切にしていきたい。こうした姿勢も、自身の強みにしていきたいと思います。
――音楽を続ける中で、印象に残っている出来事や、心に残る言葉があれば教えてください。
東京藝術大学在学時、周囲と比べて自分の歩みが遅いのではないかと感じていた時期があり、恩師に相談しました。そのときにいただいた言葉です。
『小さな小枝をたくさん生やして、小さな花をつけるのではなく、太い幹を育て、立派な枝を伸ばし、その先に大輪を咲かせてください』
この助言で「焦らずに声と向き合おう」と覚悟が決まりました。歌手人生、音楽を学ぶという事はとても長い道のりで、焦らずに、自分の声とともに丁寧に成長していこうと思えるようになりました。
ちなみにこの恩師とは、高校生のときに受験をするため、上京し一度だけレッスンをして頂いたことがあります。当初は数回レッスンを受けることになると地元の先生から聞いていましたが、『じゃあ次は入試で会いましょう』と言われ、当時の私は見放されたのでは?と思い、ひどく落ち込んでしまいました。ですが後になって、それは“地元の先生を信頼して励みなさい”という意味だったと知り、とても安心したのを覚えています。
――ドイツでの生活について教えてください。
一生懸命考えましたが、実はそれほど不自由に感じていることはなく・・・・(笑)。むしろ珍エピソードも多いので楽しんでいます。ただ、日本とのシステムや習慣の違いに戸惑うこともあり、“わからなければすぐに聞く”ということを心がけるようになりました。
たとえば、ドイツの新幹線に乗車しているとき、急な行先変更が生じることがあり、アナウンスのみの案内で不安になることもあります。そんなときは、近くの人に尋ねるようにしていますが、そこから別の会話が生まれたり、あらためて人とのつながりを感じる場面も多くありました。
――今回の公演について、選曲や注目してほしい点を教えてください。
2人とも好きな曲はシェーンベルク《四つの歌》です。そして、私が特に好きな曲はラヴェル《5つのギリシャ民謡》です。また、グリーグの《世の中なんてそんなもの》《秘密を守るナイチンゲール》の2曲も、大変愛らしい作品で、ぜひ注目していただきたいです。
今回はたくさんの言語で歌曲を歌いますが、発声で使う“顔”の部分が異なるように感じています。その中で、フランス語は自分にとって自然な位置で声が響く感覚があり、声の”メンテナンス”のような役割も果たしています。
――共演される左近允茉莉子さんについてお聞かせください。
左近允さんの飾らない、むしろ“飾れない”そのナチュラルな雰囲気に、私自身とても助けられています。おかげでリハーサルから本番まで、過度に気を張ることなく、自然体でいられるように感じています。
以前、一緒にフランクフルトを訪れた際には、日本食やラーメン、日本酒を楽しんだこともありました。左近允さんはお酒がお好きで、本当においしそうにお酒を楽しんでいる様子が、なんとも印象に残っています。
――最後に、ご来場の皆さまへのメッセージをお願いします。
横須賀芸術劇場では、サポートメンバーズの方含め、熱心なファンの方々がいらっしゃるとうかがっています。地元に愛されているこのホールで、私たちの音楽の魅力をお届けし、皆さまに満足してお帰りいただけるよう努めたいと思います。
歌曲に馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、美術館の展覧会で絵画や作品に出会うように、一つの新たな発見として歌曲の世界に触れていただけたら嬉しいです。多くの“出会い”に満ちたコンサートになることを願っています。
フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ シリーズ 67
竹田舞音ソプラノ・リサイタル
ピアノ:左近允 茉莉子
2025年 9月23日 (火・祝) 15:00開演 (14:30開場)
ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
全席指定:2,000円