YOKOSUKA ARTS THEATRE

能「隅田川」×オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演”幻” 公演に寄せて- 観世喜正

「隅田川」は世阿弥の息子、観世十郎元雅の作品として知られる悲劇の名作です。

念仏の場面で、子方の梅若丸の幽霊を舞台上に出現させるか否かを、元雅と世阿弥が親子で論争した話しが「申楽談義」に載っており、14世紀の前半にそうした真剣な演出議論を行っていたことに驚きを覚えます。

この演目、人買い商人に連れていかれた都の少年・梅若丸を、母親が狂乱となりながら探し歩く、「狂女物」といわれる形式の能で、観阿弥作の「百萬」、世阿弥作の「桜川」、作者不詳ながら秋の名作とされる「三井寺」など、それら親が子を探す作品は、必ず最後に親子が再会を果たし、ハッピーエンドとなります。
しかし現行演目の中で唯一この「隅田川」だけが、息子は亡くなっており親子の再会の果たせない真の悲劇として描かれています。

演目名の「隅田川」も、横須賀を始め、関東の方にはどなたにもお馴染みの川の名前。遠く平安時代の伊勢物語・東下りをモチーフに、室町時代の十郎元雅が描いた、いわば関東のご当地ソングともいえる演目ですが、この演目が20世紀後半に、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによって、能をモチーフとしたオペラ「カーリュー・リバー」として再生されたことは実に興味深いことです。
能とオペラ、東洋と西洋、仏教(念仏)とキリスト教(賛美歌)、いくつもの対比と踏襲を通して、テーマへの共感、能とオペラの演劇性の融合に繋がっていきました。

今回は、市川海老蔵さんの「源氏物語」で度々共演させて頂いた、声楽家の彌勒忠史さんと横須賀芸術劇場さんとの御縁とが重なり、能の「隅田川」に続けてオペラの「カーリュー・リバー」を上演できることになりました。
彌勒さんのアイデアにより、能舞台をそのまま使用してオペラにつなげるという手法で、両方の作品を一つの舞台でご鑑賞いただける形となります。

ぜひ、両作品をご覧いただき、「違い?」「共通性!」などなど、お客様方の色々な視点、感覚から多くのご感想をお聞かせ頂けたら、この上ない喜びです。

公演概要
能「隅田川」×ブリテン オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演 ”幻”
2020年 10月18日 (日) 14:00開演 (13:30開場)
よこすか芸術劇場