YOKOSUKA ARTS THEATRE

能「隅田川」×オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演”幻” 公演に寄せて- 彌勒忠史

この度、能の「隅田川」と、20世紀イギリスを代表する作曲家、ベンジャミン・ブリテンが、その「隅田川」から霊感を得て作曲したオペラ「カーリュー・リヴァー」を連続上演することとなりました。
観客の皆様には、観世流シテ方でいらっしゃる観世喜正先生のプロデュース、ご出演により、何百本という蝋燭に照らし出された幻想的な舞台で演じられる「隅田川」をご覧いただいたのち、全く同じ舞台で、今度はキリスト教世界に翻案された、同じ魂を持つ物語をご覧いただきます。

そもそも、このような上演形態の公演が発案されましたのは、観世喜正先生が、毎年、横須賀芸術劇場において蝋燭能をプロデュース、上演されてきたこと、そして私が同劇場にて、やはり毎年、「オペラ宅配便シリーズ」をプロデュース、演出してきたという背景があるためです。そして、光栄なことに、2018年まで数年にわたって、市川海老蔵丈の「源氏物語」で観世先生と共演をさせていただいたことから、直接お話をする機会を得て、「何か面白いことをご一緒に」とお声がけをさせていただきました。

私は「オペラ宅配便シリーズ」においても、しばしば日本人としてのアイデンティティを前面に出した演出を行います。それにはいくつかの理由があるのですが、やはり私自身が西洋藝術音楽を生業としながらも、日本で生まれ育ち、日本文化のバックボーンを持ち、さらに能、歌舞伎、文楽といった伝統芸能が好きであるために、それらの要素を舞台上にちりばめたくなる、というのが一番大きな動機でしょう。

ブリテンが「隅田川」に触発されたように、私も今回の「カーリュー・リヴァー」は能の要素を多く取り入れて演出したいと考えています。例えば、まず小道具や衣装などを、能そのものではなくとも、インスピレーションを得た形でデザインすることを考えています。
そして、これは演出法、劇作法に関わることですが、「カーリュー・リヴァー」初演時の演出プランを、あたかも能における型のように扱ってみようと思っています。もちろん初演時と舞台セットも違えば、衣装も小道具も照明も違うわけですから、当時の演出プランでそのまま舞台が成立するわけではありません。しかし型が、特定の心情や情景を表すために非常に有効であることを鑑みた時、初演時の所作や動線を“伝承”し、型として扱った上で、そこから新しい表現“型破り”を生み出せれば、と考えているのです。

幽玄の世界と日本に里帰りしたオペラのコラボレーションに、どうぞご期待ください。

公演概要
能「隅田川」×ブリテン オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演 ”幻”
2020年 10月18日 (日) 14:00開演 (13:30開場)
よこすか芸術劇場