YOKOSUKA ARTS THEATRE

「川」のほとり〜満を持してよこすかの舞台に登場する二つの救済の物語へ  音楽評論家 加藤浩子

あの世とこの世の往来は、いつの時代も変らぬテーマである。その中で、「川」や「渡し守」は重要な役割を果たしてきた。川はあの世とこの世を分け隔て、渡し守はあの世とこの世を、生者と死者をつなぐのだ。

ギリシャ神話のオルフェウスは三途の川の渡し守に歌を歌って、黄泉の国の妻を取り戻そうとした。15世紀の天才能楽師観世十郎元雅は、隅田川のほとりで亡き子の魂と一瞬交わる母の嘆きを名作《隅田川》で描いた。その《隅田川》に感銘を受けた20世紀の作曲家ベンジャミン・ブリテンは、架空の「カーリュー・リヴァー」のほとりで亡き子の魂と出会って救われる母の姿を、オペラ《カーリュー・リヴァー》で歌い上げた。

《隅田川》から生まれた《カーリュー・リヴァー》は、同じ物語をなぞりながら別の結末へと導く。ブリテンが提示するのは、キリスト教の「奇跡」と「救済」の物語だ。しかし《隅田川》にも、救いはある。ここでは死んだ子供が念仏で救われる。母の愛が置き去りにされるのは、子供がこの世に未練を残していては成仏することができないからだ。同じ根から生まれた二つの作品は、最終的に異なる世界観によって浄化される。それを見比べることは、なんとスリリングなことだろう。

このたびの連続上演「幻」は、この2作を一度に観られる貴重な機会である。前半が《隅田川》、後半が《カーリュー・リヴァー》という順番も、カタルシスを味わうにはうってつけだ。何より、これはよこすか芸術劇場ならではの企画である。《隅田川》を演出する観世喜正、《カーリュー・リヴァー》を演出する彌勒忠史は、いずれも長年、同劇場で能とオペラの人気シリーズをこの劇場でプロデュースしてきた。いわば待ちに待った協働であり、そのコラボレーション作品として《隅田川》と《カーリュー・リヴァー》以上にふさわしい作品はないだろう。ブリテンのスペシャリストで、《カーリュー・リヴァー》を知り尽くした鈴木准が主役を歌い、指揮者、オルガニストとしてマルチな活動を繰り広げる鈴木優人がオペラの指揮を執るのも、大いに楽しみである。

 

公演概要
能「隅田川」×ブリテン オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演 ”幻”
2020年 10月18日 (日) 14:00開演 (13:30開場)
よこすか芸術劇場
*この公演は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、前後左右1席ずつ開けて販売いたします。
感染状況が改善された場合には、前後左右の空席を追加販売する可能性があります。

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